微生物及びその関連発明

微生物は、化学、バイオ分野において、古くから現在に至るまで重要な役割を果たしています。例えば、微生物は、発酵やバイオテクノロジーのプロセスに使用され、食品、医薬品、燃料、化学物質などの生産に貢献しています。また、微生物は、地球上の生態系においても重要であり、農業のための土壌形成や窒素固定などの生態系サービスを提供しています。さらに、微生物は、病原体としても知られており、病気の原因となる一方で、病気の治療にも役立っています。これらの理由から、微生物は、化学、バイオ分野において不可欠な存在であり、研究が進められています。

特許庁の審査基準、審査ハンドブックでは、微生物とは、心筋、細菌、単細胞層類、ウイルス、原生動物等を意味し、さらには、動物又は植物の細胞、組織培養物が含まれると定義されています。また、遺伝子工学によって得られた融合細胞、脱分化細胞、経質転換体も含まれるとされています。

特許庁における微生物の例

  • 真菌、細菌、単細胞藻類、ウイルス、原生動物
  • 動物又は植物の細胞(幹細胞、脱分化細胞、分化細胞を含む)及び組織培養物
  • 遺伝子工学によって得られた融合細胞(ハイブリドーマを含む)、脱分化細胞、形質転換体

 

微生物及びその関連発明の発明該当性

特許法上単なる発見は、産業上利用することができる発明に該当しません。例えば、天然にある微生物を単に発見したものは、単なる発見であって創作ではないことから、発明に該当しないことを理由に特許されないということになっています。

一方、紛らわしい印象がありますが、天然物から人為的に単利した微生物は、創作したものであり、発明に該当し、特許される可能性があります。天然物から人為的に単離した化学物質も同様の理由で発明に該当し、特許される可能性があります。

 

微生物及びその関連発明の産業上の利用可能性

例えば、その有用性が、特許出願書類の明細書等に記載されておらず、かつ、何らその有用性を類推することができない生物学的材料は、「業として利用できない発明」であるため、産業上利用することができる発明に該当しないことを理由に特許されないということになっています。

さて、微生物関連発明についても、同業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明を記載する必要があります。しかし、微生物関連発明はいかに詳細に記載しても、その記載に基づいて、同業者が実施できない場合があります。そのような場合のために、微生物の寄託及び分譲制度が設けられています。

特許法施行規則第27条の2第1項では、微生物に関する発明において、その微生物を当業者が製造できるように発明の詳細な説明に記載することができない場合には、その微生物を所定の機関に寄託しなければならないとされています。微生物に関する発明の場合だけでなく、遺伝子、ベクター、組換えタンパク質、モノクローナル抗体、動植物などの発明の場合も同様に微生物の寄託が必要になります。

寄託が必要な微生物が寄託されていない場合は、特許要件の実施可能要件を満たさないことになります。

 

微生物寄託の必要性の有無

原則として、微生物に係る発明について特許出願する際は、微生物を寄託する必要がありますが、本願発明に係る微生物が寄託期間において技術的理由等によって寄託ができない場合や、当業者が容易に入手することができるものである場合、寄託は不要です。

当業者が容易に入手することができる微生物としては、例えば、パン酵母など市販されている微生物、信用できる保存期間に保存され、自由に分譲される微生物、明細書の記載に基づいて当業者が製造し得る微生物などが挙げられます。例えば、市販の動物細胞を遺伝子工学的処理した経質転換細胞Xの発明の場合、当業者は明細書の記載に基づいて市販の動物細胞Zを購入し、経質転換細胞Xを製造することができますので、寄託は不要です。

微生物の寄託の要否について事例を用いて説明します。

微生物の寄託が必要な事例

この事例は、特定の地域から得られた資料から周知の方法で単理された微生物の発明の事例です。発明の詳細な説明には、同じ地域から再度採取した資料の中に当該微生物が存在することの合理的な根拠が記載されていないとします。この場合、新規な微生物を再現性を持って取得することは困難であることから、微生物は明細書の記載に基づいて当業者が製造し得るものではなく、寄託が必要な微生物となります。

微生物の寄託が不要な事例

この事例は、新種の細菌由来のDNAに係る発明の事例です。本事例においては、請求項に係る発明はDNAに係るものであって、細菌そのものに係るものではありません。DNAの塩基配列は明細書に具体的に記載されており、当業者はこの塩基配列に基づき人工合成方法等を通じてこのDNAを取得することができるといえます。したがって、この細菌は寄託する必要はありません。

 

微生物の発明の例

[請求項1] ダイオキシン分解能を有する、バチルス ズブチリス(Bacillus subtilis)T-177株。

 

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