Amgen v. Sanofi 米国連邦最高裁判決

2023年5月18日、米国連邦最高裁判所は、Amgen v. Sanofi 事件において、Amgen社の抗PCSK9抗体特許が実施可能要件を満たしていないとして無効とした連邦巡回区高等裁判所(CAFC)の判決を全会一致で支持しました。この判決は、抗体やその他のバイオテクノロジー分野における特許権の取得と保護に影響を与える可能性があります。

Amgen社の特許権は、高コレステロール血症治療薬「レパーサ(REPATHA)」に関するもので、PCSK9(前駆体タンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9)上の特定のアミノ酸残基に結合し、PCSK9がLDL受容体に結合するのを阻害する抗体の属を機能的にクレームしていました。Amgen社は、明細書において、クレームに記載の2つの機能を果たす26の例示的な抗体を示すとともに、2つの機能を果たす他の抗体を作るためのロードマップおよび保存的置換法(conservative substitution)を提示していました。

Sanofi社は、Amgen社の特許権が、膨大な数の抗体が潜在的に含まれる権利範囲を有するとして、米国特許法112条(a)の実施可能要件を満たしていないと主張していました。連邦地方裁判所とCAFCは、Sanofi社の主張を認め、Amgen社の特許を無効としました。米国連邦最高裁判所は、これらの判断を支持したことになります。

この判決は、今後の実務に大きな影響を与えることはないという意見があります。一方、本件の Amgen 社のようなクレームは、抗体やその他のバイオテクノロジー分野では一般的であるため、判決は業界全体に大きな影響を与え、今後はより多くの実施例が求められることになるという意見もあります。今後は、明細書において、クレームされた機能を果たす抗体の作製方法や使用方法をより詳細に開示する必要があるかもしれません。また、バイオテクノロジー分野だけでなく、医薬品などの化学分野においても、同様の影響が生じる可能性があります。

参照文献
最高裁、実施可能要件が争点の Amgen v. Sanofi 事件の CAFC 判決を支持 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Ipnews/us/2023/20230519.pdf
Some Thoughts on Amgen v. Sanofi https://patentlyo.com/patent/2023/05/thoughts-amgen-sanofi.html

 

日本国内における実施可能要件

日本においても、次のように、実施可能要件は特許されるために必要とされる要件(特許要件)の一つです。バイオテクノロジー分野及び化学分野の特許権取得の際には 、実施可能要件の有無が頻繁に問題となります。

特許法第36条第4項第1号
経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載したものであること。
審査基準
明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないとき(例えば、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)には、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないこととなる。
審査基準
物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。方法の発明について実施をすることができるとは、その方法を使用できることである。方法の発明が「物を生産する方法」に該当する場合は、「その方法を使用できる」というのは、その方法により物を生産できることである。

 

Amgen v. Sanofi 米国連邦最高裁判決最高裁判決

AMGEN INC. ET AL. v. SANOFI ET AL. 最高裁判所判決

 

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